社会福祉法人の引当金の会計処理~その2~

退職給付会計の概要

 一定の期間にわたり労働を提供したこと等の事由に基づいて、退職又は退任以後に支給される退職金或いは退職慰労金(以下「退職給付」といいます。)についての会計処理は、以下のようなものがあります。株式会社等の企業向けには「退職給付会計基準」が用意されていますが、社会福祉法人にはありません。従って、退職給付会計基準に準じた以下の制度による会計処理を行います。

  1. 退職給付制度による会計処理
  2. 退職共済制度による会計処理
  3. 役員退職慰労金制度による会計処理

1は法人独自で退職金支給規定を設けている場合に採用するもので、処理が煩雑及び事務負担も大きいことから、退職共済制度を採用する法人が多いです。

退職給付制度による会計処理

 職員に対し退職金を支給することが定められている場合には、将来支給する退職金のうち、当該会計年度の負担に属すべき金額を当該会計年度の費用に計上し、負債として認識すべき残高を退職給付引当金として計上します。この場合は原則として、個々の職員について、将来支給する退職金のうち法人が負担することとなる額を見積り、その額を現在価値に割り引いてその会計年度の負担すべき額を計算します。

 しかし、以下のいずれかに該当する場合には、簡便法として退職一時金に係る期末要支給額により算定することができます。

  • 退職給付の対象となる職員数が300人未満の法人
  • 職員数が300人以上であっても、年齢や勤務期間に偏りがあるなどにより数理計算結果に一定の堅い水準の信頼性が得られな法人
  • 原則的な方法により算定した場合の額と期末要支給額との差異に重要性が乏しいと考えられる法人

例)決算において法人独自の退職給付制度による引当金の繰入を簡便法により行った。
前期末退職金要支給額 15万円 当期末退職金要支給額 16万円

退職給付費用 10,000 / 退職給付引当金 10,000
資金収支仕訳なし

退職共済制度による会計処理

確定拠出型の退職共済制度

 拠出以後に追加的な負担が生じない以下のような外部拠出型の制度については、当該制度に基づく要拠出額である掛金額をもって費用処理をします。

  • 独立行政法人福祉医療機構が運営する「社会福祉施設職員等退職手当共済制度」
  • 独立行政法人勤労者退職金共済機構中小企業退職金共済事業本部が運営する「中小企業退職金共済制度」
  • 一般財団法人全国中小企業共済財団の運営する「特定退職共済制度」

例)福祉医療機構が運営する社会福祉施設職員等退職手当共済制度の掛金を10万円支払った。

退職給付費用 100,000 / 現金預金 100,000
退職給付支出 100,000 / 支払資金 100,000

都道府県等が実施する確定給付型の退職共済制度

 退職一時金制度等の確定給付型を採用している場合は、約定の額を退職給付引当金に計上します。但し、被共済職員個人の拠出金がある場合は、約定の給付額から被共済職員個人が既に拠出した掛金累計額を差し引いた額を退職給付引当金に計上します。

 なお、簡便法として、期末退職金要支給額(約定の給付額から被共済職員個人が既に拠出した累計額を差し引いた額)を退職給付引当金とし同額の退職給付引当資産を計上する方法(簡便法1)や、法人の負担する掛金額を退職給付引当資産とし同額の退職給付引当金を計上する方法(簡便法2)を用いることができます。

例1)職員Aに対する都道府県が運営する退職共済制度(法人負担60%、個人負担40%)に5万円支払った。
・Aの退職共済掛金累計額 前期末100万(法人負担60万、個人負担40万) 当期末105万(法人負担63万、個人負担42万)
・Aの退職金要支給額   前期末110万(法人分66万、個人分44万) 当期末120万(法人72万、個人分48万)

1.原則法

① 退職共済掛金の個人負担分の受領
 5万×40%=2万

現金預金 20,000 / 退職共済預り金   20,000
支払資金 20,000 / 対象共済預り金収入 20,000

② 共済掛金の支払い

退職給付引当資産    30,000 / 現金預金 50,000
退職共済預り金     20,000

退職給付引当資産支出  30,000 / 支払資金 50,000
退職共済預り金返還支出 20,000

③ 決算時
(120万‐110万)×60%=6万→退職給付引当金に計上

退職給付費用 60,000 / 退職給付引当金 60,000
資金収支仕訳なし

2.簡便法1

① 退職共済掛金の個人負担分の受領→原則法と同一
② 共済掛金の支払い→原則法と同一

③ 決算時
(120万‐110万)×60%=6万→退職給付引当金に計上
6万‐3万(②における法人負担分)=3万→退職給付引当資産に計上

退職給付引当資産 30,000 / 退職給付引当金 60,000
退職給付費用   30,000
資金収支仕訳なし

3.簡便法2

① 退職共済掛金の個人負担分の受領→原則法と同一
② 共済掛金の支払い→原則法と同一

③ 決算時
②における法人負担分3万を引当金に計上

退職給付費用 30,000 / 退職給付引当金 30,000
資金収支仕訳なし

例2)翌年に職員Aが退職し、123万円を支払った。
・Aの退職共済掛金累計額 105万(法人負担63万、個人負担42万)
・Aの退職金要支給額   120万(法人72万、個人分48万)

1.原則法

退職給付引当金  1,200,000 / 現金預金         1,230,000
退職給付費用     30,000
現金預金     1,230,000 / 退職給付引当資産     1,050,000
                 その他の収益        180,000

退職給付支出   1,230,000 / 支払資金         1,230,000
支払資金     1,230,000 / 退職給付引当資産取崩収入 1,050,000
                 その他の収入        180,000

2.簡便法1

退職給付引当金 1,200,000 / 現金預金         1,230,000
退職給付費用    30,000
現金預金    1,230,000 / 退職給付引当資産     1,200,000
                その他の収益         30,000

退職給付支出  1,230,000 / 支払資金         1,230,000
支払資金    1,230,000 / 退職給付引当資産取崩収入 1,200,000
                その他の収入         30,000

3.簡便法2

退職給付引当金 1,050,000 / 現金預金         1,230,000
退職給付費用   180,000
現金預金    1,230,000 / 退職給付引当資産     1,050,000
                その他の収益        180,000

退職給付支出  1,230,000 / 支払資金         1,230,000
支払資金    1,230,000 / 退職給付引当資産取崩収入 1,050,000
                その他の収入        180,000

役員退職慰労金制度による会計処理

 役員に対し在任期間中の職務執行の対価として退職慰労金を支給することが定められており、、その支給額が規定等により適切に見積もることが可能な場合には、将来支給する退職慰労金のうち、当該会計年度の負担に属すべき金額を当該会計年度の役員退職慰労引当金繰入に計上し、負債として認識すべき残高を役員退職慰労引当金として計上します。

例1)役員退職慰労引当金繰入を3万円計上した。

役員退職慰労引当金引当金繰入 30,000 / 役員退職慰労引当金 30,000
資金収支仕訳なし

例2)役員の退職に伴い、80万円を支払った。

役員退職慰労引当金 800,000 / 現金預金 800,000
役員退職慰労金支出 800,000 / 支払資金 800,000